定着しない本当の原因は何でしょうか。多くの場合、障害特性でも採用基準でもなく、「何をどこまでやれればいいのか」が本人にも会社にも見えていないことです。KPIを設計するとは、単に数字を管理することではなく、「一緒に目指す目標を見える化すること」です。

「なんとなく雇用」が離職を生む

障害者雇用の定着率が低い企業の多くに共通するのは、「なんとなく雇用している」状態です。業務目標が不明確で、本人は「自分はここにいていいのだろうか」という不安を抱え続ける。上司は「うまくいっているのかどうかよくわからない」まま時間が過ぎる。この曖昧な状態が、じわじわと離職のリスクを高めていきます。

KPIを設定することで、この状態は一変します。「今週はタスクを〇件完了する」「今月はこのフローを自力で構築する」という具体的な目標があれば、本人は自分の進捗を実感できます。達成できたときの「自分はここに貢献できている」という感覚が、定着率を大きく左右します。

KPI1:定着率——そもそも何%を目指すべきか

障害者雇用の定着率は業界平均で1年後に約60%と言われています。3年後になると約45%まで落ちるというデータもあります。一方、TSUNAGU Academyを活用して体制を整えた企業では、1年後の定着率80%以上を達成しているケースが多くあります。

期間業界平均定着率目標値
3ヶ月後約75%90%以上
1年後約60%80%以上
3年後約45%65%以上

この差を生み出しているのは、採用段階での差ではなく、入社後のサポート体制とKPI設計の有無です。定着率を「結果として測る指標」として扱うだけでなく、「定着率が下がる前に介入するための先行指標」を設定することが重要です。

KPI2:業務達成率——成果を「見える化」する

業務達成率は、週次・月次で設定したタスクのうち、どれだけ完了できたかを測る指標です。目標として設定するのは、週次タスクの完了率80%以上、納期遵守率95%以上、業務品質スコア(エラー率・修正率)、そして自己解決率(上司への確認なしに自分で解決できた割合)です。

自己解決率は特に重要な指標です。この数字が上がるほど、本人の自信と自走化が進んでいることを意味し、上司の工数も削減されます。週次1on1でこの数字を本人と一緒に確認し、「先週は3件自分で解決できたね」と言語化するだけで、本人のモチベーションは大きく変わります。

KPI3:スキル習得率——成長の見える化が長期定着を生む

スキル習得率は、あらかじめ設定したスキルロードマップに対する進捗度です。IT/DX業務においては、Power Platformの各ツール(Power Automate・Power BI・SharePoint・Power Appsなど)の習得状況を半期ごとに評価します。

「入社から6ヶ月でPower Automateの基礎フローを自力で構築できる」「1年後にはPower BIダッシュボードを担当できる」というマイルストーンを本人と一緒に描くことで、「この会社でどう成長できるか」が見える状態になります。成長の見える化こそが、長期定着の最も強力なエンジンです。

KPIの設定と運用は、必ず本人との対話と合意のもとで行うことが大原則です。「管理される」という感覚ではなく、「一緒に目標を達成していく」という共同作業として位置づけることが、KPI設計を定着率向上に結びつける鍵です。

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TSUNAGU 編集部

TSUNAGU 編集部

障害者雇用専門

障害者雇用・IT/DX活用に関する情報を、人事担当者の視点でわかりやすく発信。 社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントが監修。最新の制度・法令については各省庁の公式情報をご確認ください。

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2022年〜連載中
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