「障害者雇用ビジネス」を利用した障害者雇用は、厚生労働省が把握した限りで就業障害者数が令和5年3月末の約6,600人から令和7年10月末には約11,100人に増加するなど、短期間で大きく増加する傾向にあります。この背景には、法定雇用率の引き上げと企業側のノウハウ不足があります。しかし、農園型・福祉工場型を中心とした「障害者雇用ビジネス」が抱える構造的課題について、厚生労働省の研究会報告書(令和8年2月)でも大きな問題提起がなされています。

「障害者雇用ビジネス」とは何か——農園型モデルの構造

いわゆる「障害者雇用ビジネス」とは、企業(利用企業)が第三者である事業者(ビジネス事業者)に委託し、ビジネス事業者が運営する就業場所(農園・工場・倉庫等)で障害者を雇用・勤務させる事業モデルです。利用企業は障害者と雇用契約を結びながら、実際の業務指導・就業場所の管理はビジネス事業者に委託します。

農園型モデルでは、利用企業の本業とは全く異なる「農業・園芸業務」が障害者に割り当てられることが多く、利用企業の本社・工場とは別の場所で勤務が行われます。これにより、利用企業の経営層や一般従業員との日常的な接点が極めて薄くなり、障害者のキャリア形成や職場への定着支援が不足しがちになります。

農園型の就業場所——利用企業の本業と分離された業務環境

農園型の就業場所——利用企業の本業と分離された業務環境

厚生労働省が指摘する3つの構造的課題

厚生労働省「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会報告書」(令和8年2月6日)では、障害者雇用ビジネスについて以下の課題が整理されています。

課題1:業務内容・就業場所の分離によるインクルージョンの観点からの課題

利用企業と障害者の間で、業務内容・就業場所の分離(利用企業の本業と障害者が従事する業務の関わりが薄い/就業場所が利用企業の他の従業員と異なること)があり、「障害の有無にかかわらず共に働く」という理念から離れています。また、それに伴い、利用企業側(経営層・従業員等)における障害者への理解が深まっていかないという問題もあります。さらに、雇用契約を締結しながら、利用企業側の日常的な接点が薄いことにより、雇用する障害者のキャリア形成等を含めた雇用管理等の意識に至らないという課題があります。

課題2:固定的な業務付与による能力開発の制限

付与される業務が固定化し、障害者の習熟に伴う職務内容のレベルアップが図られないことが指摘されています。利用企業側の組織的関与が薄いことや、ビジネス事業者の障害特性の理解が不十分であること等により、適正な雇用管理(募集・採用・配置・育成等の計画的な実施)や、障害特性に配慮した措置がなされていないケースがあります。

課題3:障害者の能力発揮の成果が事業活動へ十分活用されないこと

障害者の能力発揮の成果が、十分に利用企業の経済活動(事業活動)に活用されておらず(例:成果物の破棄、必ずしも重要性が高くない頒布に留まる等)、法定雇用率達成のみを目的とした雇用となっているケースがあります。また、働く障害者に対して十分な業務付与等がない中で賃金が支払われる構造であることにより、障害者自身の働く意欲を減退・喪失させることにつながっているという指摘もあります。

業務分離と雇用責任の希薄化——「数合わせ」にならないために

業務分離と雇用責任の希薄化——「数合わせ」にならないために

「禁止」はできない——制度設計のジレンマ

大部分の「障害者雇用ビジネス」については、明らかな法令違反ではない中で、憲法上保障される経済活動の自由に対し、「公共の福祉に反する」ことを理由とした「禁止」(及び許可事業者のみの「禁止」の解除)を行うことは、法制上の課題があります。

そのため、厚生労働省は「禁止」ではなく「適正な運営」を促す方向で制度設計を進めています。具体的には、障害者雇用状況報告(6.1報告)において「障害者雇用ビジネス」を使用している場合については、一定の項目(就業場所、ビジネス事業者の情報、障害者が従事する業務内容、利用予定期間等)の報告を求めることにより、行政庁において網羅的に把握可能とし、必要な指導監督を行い得るようにする方向が検討されています。

制度設計のジレンマ——禁止ではなく適正運営を促す方向へ

制度設計のジレンマ——禁止ではなく適正運営を促す方向へ

企業が本当に取るべき対応とは

厚生労働省の報告書は、利用企業に対して以下の方向性を示しています。まず、「障害者雇用ビジネス」を利用する場合は、ガイドラインに沿っていない運営を行う事業者の利用は望ましくないとされています。次に、障害者の就業を通じた成果物は、利用企業自身の事業活動において有為に活用すべきとされています。そして一定期間の利用の後は、利用企業自身の事業活動の中で障害者雇用のための業務切出し等を行い、雇用される障害者の希望を踏まえつつ、自社の就業場所へ障害者雇用を移行させていくことが望ましいとされています。

企業の対応具体的なアクション期待される効果
ガイドライン適合の確認ビジネス事業者がガイドラインに沿った運営を行っているか確認する不適正な事業者の排除・質の向上
成果物の本業活用障害者の就業を通じた成果物を自社の事業活動において有為に活用する設計を行う雇用の質向上・本人の意欲維持
自社移行計画一定期間後に自社の就業場所での障害者雇用に移行させていく計画を立てる中長期的な障害者雇用の持続可能性
定期コミュニケーション障害者本人・人事担当者・ビジネス事業者の三者間で定期的なコミュニケーションを図る合理的配慮の適切な実施・早期問題発見

「在宅×IT業務」が提示する別の選択肢

農園型雇用ビジネスへの依存を脱却するための、最も現実的な代替モデルが「在宅×IT業務」です。Power Automateによる業務自動化、Power BIでのデータ可視化、SharePointでの情報管理基盤整備——これらの業務は、利用企業の本業に直接関わりながら、障害者社員が自宅で高い生産性を発揮できる領域です。

重要なのは「自社の事業活動に成果が還元される」という点です。障害者社員が構築した自動化フローは毎月社内で使われ、作成したダッシュボードは経営会議で参照されます。「法定雇用率達成のみを目的とした雇用」ではなく、「会社の競争力に貢献する雇用」という構造が生まれます。これは厚生労働省が求める「障害者の能力発揮の成果が事業活動に活用される」という方向性と完全に一致します。

「障害者雇用ビジネス」は一時的な手段として位置づけられますが、中長期的な我が国の障害者雇用の進展にとって負の影響が懸念されます。TSUNAGU Academyでは、IT/DX業務に特化した障害者向け研修と、企業の自社での障害者雇用推進を一体的に支援しています。「委託する」から「自社で育てる」への転換を、一緒に設計しましょう。

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TSUNAGU 編集部

TSUNAGU 編集部

障害者雇用専門

障害者雇用・IT/DX活用に関する情報を、人事担当者の視点でわかりやすく発信。 社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントが監修。最新の制度・法令については各省庁の公式情報をご確認ください。

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