「障害者雇用促進法って、法定雇用率を達成すれば大丈夫でしょう?」——この認識を持っている人事担当者が、まだ少なくありません。実は、法定雇用率の達成は義務のひとつに過ぎず、差別禁止・合理的配慮の提供・報告義務など、複数の独立した法的義務が企業に課されています。特に2024年改正で合理的配慮が民間企業にも義務化されたことで、「提供しなかった」場合のリスクが高まっています。企業が知るべき法的義務の全体像を整理します。

法的義務は「雇用率」だけではない:5つの義務

雇用率達成義務は、常用雇用労働者数が100人を超える企業に対して、法定雇用率以上の障害者を雇用することを求めます。2024年4月に2.5%へ引き上げられ、2026年7月には2.7%への引き上げが予定されています。達成できない場合、不足人数×月5万円の納付金が課され、雇用率が著しく低い場合は社名公表の対象にもなります。

差別禁止義務は企業規模を問わずすべての事業主に適用されます。募集・採用・賃金・昇進・教育訓練など、雇用の全ステージにおいて、障害を理由とした不当な差別的取り扱いが禁止されています。「障害者だから昇進させない」「障害者だから給与水準を下げる」というケースはもちろん、採用面接での不適切な質問も差別的取り扱いと見なされる場合があります。

義務の種類対象内容不対応時のリスク
雇用率達成義務常用100人超法定雇用率以上の障害者を雇用納付金・行政指導・社名公表
差別禁止義務全事業主募集・採用・待遇での不当差別禁止行政指導・勧告
合理的配慮提供義務全事業主(2024年改正で義務化)過重な負担なく提供できる配慮の実施行政指導・勧告
雇用状況報告義務常用100人超毎年7月15日までに報告書提出行政指導
情報提供義務全事業主障害者に対する賃金・処遇情報の提供行政指導(新設規定)

2024年改正の最大のポイント:合理的配慮の義務化

2024年4月施行の改正障害者雇用促進法で、合理的配慮の提供が民間企業にも「義務」となりました(従来は努力義務)。合理的配慮とは「過重な負担にならない範囲で、障害者が働きやすくなるための調整」のことです。本人から申し出があった場合、企業は「対話→配慮の検討→提供」というプロセスを踏む義務があります。

重要なのは「対話が原則」という点です。本人が「在宅勤務を認めてほしい」と申し出た場合、企業は「認めるか認めないか」を一方的に決めるのではなく、まず本人と話し合い、可能な範囲での対応を誠実に検討しなければなりません。「過重な負担」にあたると判断して提供しない場合も、その理由を説明する義務があります。

合理的配慮の実例:どこまで求められるか

合理的配慮の範囲は「過重な負担にならない範囲」という基準で判断されますが、実際には多くの配慮がコストをかけずに実現できます。業務マニュアルの作成・提供、休憩時間の柔軟な調整、テレワーク・在宅勤務の許可、コミュニケーション方法を口頭から文書(Teams・メール)に変えること——これらはすべて追加コストがほぼゼロで実施できる配慮です。「合理的配慮は大変そう」という印象は、実態と大きく乖離しています。

  • 1業務マニュアルの作成・提供(視覚化・手順書)
  • 2休憩時間・勤務時間の柔軟な調整
  • 3テレワーク・在宅勤務の許可(通院日はリモート可など)
  • 4口頭指示から文書指示(Teams・メール)への変更
  • 5専用または静かな作業スペースの確保
  • 6面接・評価の際の合理的な方法の調整

法的義務は「守るべきコスト」ではなく「活躍できる環境を作るための枠組み」です。TSUNAGU Academyでは、合理的配慮の具体的な設計支援と、5つの法的義務すべてへの実務対応をサポートしています。「知らなかった」では済まない時代になっています。

この記事は役に立ちましたか?

TSUNAGU 編集部

TSUNAGU 編集部

障害者雇用専門

障害者雇用・IT/DX活用に関する情報を、人事担当者の視点でわかりやすく発信。 社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントが監修。最新の制度・法令については各省庁の公式情報をご確認ください。

記事 92本
2022年〜連載中
TSUNAGU