「体調が少し悪いと感じていたけど、言い出せなくて、そのまま悪化してしまった」——障害者社員の離職・休職の前には、多くの場合こういうプロセスがあります。早期に言えていれば防げた。でも言えなかった。その「言えなかった」の背景には、3つのバリアがあります。このバリアを取り除き、「言える職場」を作ることが、定着率向上の最も根本的なアプローチです。

自己開示を阻む3つのバリアの正体

最初のバリアは「言ったら迷惑をかける」という遠慮です。「みんな忙しそうなのに、自分の体調の話を持ち込んでいいのだろうか」という気持ちが、言葉を飲み込ませます。特にASD特性を持つ方の中には「相手の迷惑になることをしてはいけない」という意識が強い方が多く、この遠慮が深刻な状態になるまで続くことがあります。

2つ目は「評価が下がるのでは」という不安です。「体調が悪いと言ったら、仕事を外されるかもしれない」という評価への影響の不安が、自己開示を阻みます。3つ目は「相談しても変わらない」という無力感です。「以前一度言ったが、何も変わらなかった」という体験が積み重なると、「言っても意味がない」という学習性無力感が生まれます。

3つのバリアをそれぞれ取り除く設計

「迷惑をかける」という遠慮を取り除くには、「言うことが正しいことだ」という明示的なメッセージが必要です。1on1のたびに「今週、しんどかったことはある?」と聞く習慣を管理職が持つことで、「体調の話をすることは想定されている」というメッセージが伝わります。この一問が、待っているだけでは出てこない本音を引き出します。

「評価が下がる」という不安を取り除くには、管理職自身が先に弱みを開示する「モデリング」が効果的です。「私も先週はちょっと疲れていて、金曜は早めに上がりました」という管理職の言葉は、「ここでは弱みを言っていい」という許可になります。そして「相談しても変わらない」という無力感には、「相談したら実際に変わった」事例を社内で共有することが最も効果的な対応です。

  • 1on1で毎回「今週しんどかったことは?」を必ず聞く(聞かれる場があると安心できる)
  • 管理職が自分の失敗・悩みを先に開示する(「ここでは言っていい」というモデリング)
  • 「相談して改善された事例」を社内で共有し「言えば変わる」を実証する
  • 「合理的配慮ガイド」を全社員が参照できる場所に置き、申し出の方法を明確にする
  • 体調変化の連絡に「教えてくれてありがとう」で応答する(言って良かったと思える体験を作る)

「教えてくれてありがとう」という言葉の力

体調が悪いという連絡を受けたとき、「それは大変でしたね」という同情と、「教えてくれてありがとうございます、早めに言ってもらえて助かります」という感謝では、受け取った側の体験がまったく違います。「言ったことで感謝された」という体験が一度あると、次も言えるようになります。この小さな積み重ねが「言える職場」の文化を作ります。

心理的安全性は「作るもの」ではなく「毎日の小さな言動で育てるもの」です。TSUNAGU Academyでは、自己開示を促す職場文化の醸成プログラムと、管理職向けの1on1スキル研修を提供しています。「言える職場」を一緒に作りましょう。

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TSUNAGU 編集部

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障害者雇用専門

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