「上司には言えないことがある」——障害者社員の多くが抱えるこの感覚は、支援体制の充実だけでは解消しきれません。上司は評価者であり、管理者でもある。どんなに良い人でも、「評価に響くかもしれない」という気持ちは消えません。その壁を越えるのが「ピアサポート」——同じ障害を持つ先輩社員が後輩の話を聞く仕組みです。「同じ経験をした仲間だから話せる」という信頼が、上司への相談より早く問題を表面化させ、定着率を高めます。

「言えない」が「離職」に変わるまでのプロセス

障害者社員の離職は、多くの場合「突然」に見えて、実際には長期間にわたる小さな「言えなかったこと」の蓄積から起きています。「マニュアルの手順が自分にはわかりにくい」「会議で話についていけないことがある」「体調が少し悪い日が続いている」——これらはすべて、早めに共有していれば対処できたことです。

上司への相談ハードルが高い理由は、「弱みを見せることへの恐れ」と「評価への影響」への不安です。ピアサポーターはこの2つの障壁を取り除きます。評価権限を持たない「同じ立場の仲間」だからこそ、本音を話せる。ピアサポーターが月1回の面談で「最近どう?」と聞くだけで、問題の早期発見率が大幅に上がります。

ピアサポーターの要件と育成方法

ピアサポーターに適した人材は「入社2年以上で業務が安定しており、話を聞くことへの意欲がある障害者社員」です。コミュニケーションが得意である必要はありません。「相手の話を最後まで聞ける」「アドバイスではなく共感を示せる」この2点が最も重要な資質です。

育成研修では3つのスキルを習得させます。傾聴スキル(途中で意見を言わず、最後まで聞く)、守秘義務(聞いた内容を本人の同意なく上司に伝えない)、限界設定(自分で解決できない問題は「一緒に相談しよう」と言える)。この3つができれば、専門的なカウンセリング資格がなくても十分に機能します。

  • 対象者:入社2年以上・業務が安定している障害者社員・本人の意向を確認する
  • 育成研修:傾聴スキル・守秘義務・相談対応の限界設定(2〜4時間)
  • 活動内容:担当後輩と月1回の面談・困りごとのヒアリングと(同意を得て)報告
  • 報酬:役割手当として月5,000〜10,000円程度を支給する
  • 担当上限:1人のピアサポーターが担当するのは2〜3名まで(過負荷防止)

ピアサポートを「文化」に育てるために

ピアサポートが機能し続けるためには、「ピアサポーターも孤独にならない」仕組みが必要です。ピアサポーター同士が月1回集まって「こんな相談があった(匿名で)・どう対応した」を共有する場を設けることで、一人で抱え込まず、互いに学び合えます。また、ピアサポーターの活動内容と成果(「何件の困りごとを拾えたか」)を定期的に上司と共有することで、組織としての取り組みとして可視化されます。

ピアサポートは「支援する人を増やす」仕組みではなく、「組織に「話せる場所」を増やす」文化づくりです。TSUNAGU Academyでは、ピアサポーター育成研修のコンテンツ提供と、運用設計の支援を行っています。「言えない」を「言える」に変える文化を、一緒に組織に根付かせましょう。

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TSUNAGU 編集部

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障害者雇用専門

障害者雇用・IT/DX活用に関する情報を、人事担当者の視点でわかりやすく発信。 社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントが監修。最新の制度・法令については各省庁の公式情報をご確認ください。

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