「この入力フォーム、自分には使いにくくて毎日ミスしてしまう」——ある日、ASD特性のある社員がそう打ち明けてくれた担当者は、「では一緒に使いやすいものを作ってみよう」と提案しました。2ヶ月後、その社員が自らPower Appsで構築した体調記録アプリは、チーム全員が「こっちのほうが使いやすい」と言い、今では部署標準ツールになっています。Power Appsによる業務内製化が、障害者雇用の現場で起こしている変化を解説します。
Power Appsとは——「自分で作れる」が持つ意味
Power Appsは、プログラミングの専門知識がなくても、画面をドラッグ&ドロップで設計してスマートフォン・PC向けアプリを開発できるMicrosoftのローコードツールです。SharePointのデータと連携でき、Power Automateと組み合わせると通知・承認・自動記録まで実装できます。
障害者雇用においてこのツールが持つ意義は、「使いにくいと感じていた業務ツールを、自分で使いやすく改善できる」という経験にあります。「与えられたツールを使う側」から「自分と同僚が使いやすいツールを設計する側」への転換は、本人のエンゲージメントと自己効力感を大きく変えます。「自分が作ったものが、毎日みんなに使われている」という感覚は、定着意欲の強力なエンジンになります。
事例1:体調記録アプリの内製化——バリアフリー入力を自分で設計
ASD特性のある社員が担当した体調記録アプリは、既存の日報フォームが「どこに何を入力すればいいか直感的にわからない」「入力ミスが多い」という問題から生まれた内製化プロジェクトです。本人が「自分が使いやすい」と感じるUI設計を出発点にしたため、フォントサイズ・ボタンの大きさ・入力ステップの分かりやすさにこだわった画面が完成しました。
チームに展開すると「これは誰でも使いやすい」という評価を受け、部署標準ツールとして採用。「自分の困りごとを解決したものが、他の人の役にも立った」という体験が、本人の自信と次のプロジェクトへのモチベーションになっています。
事例2:在庫管理アプリ——バーコードスキャン連動で入力ミスをゼロに
ディスレクシア(読み書き障害)の特性を持つ社員が開発した在庫管理アプリは、スマートフォンのカメラでバーコードをスキャンするだけで商品情報を自動入力できる仕組みです。手動入力での数字・文字の読み取りミスが課題だった本人が、「入力しなくていい仕組みを作れば解決する」という発想で設計しました。
バーコードスキャン連動はPower Appsの標準機能として実装されており、難しいコーディングは不要でした。「自分の特性による苦手を、ツールで解消する」——この発想がそのまま、全社員の業務効率向上につながりました。月間の在庫管理ミスが以前の30件から2件に削減されたという数字が、このアプリの価値を証明しています。
事例3:シフト申請アプリ——精神障害者が「声を上げやすい」仕組みを作った
精神障害(双極性障害)のある社員が開発したシフト申請アプリには、「体調による勤務時間変更の申請」機能が組み込まれています。メールで上司に「少し休ませてください」と書くことへの心理的ハードルが高かった本人が、「ボタン一つで申請できれば言いやすい」という発想で設計しました。
上司への通知・承認記録のSharePoint保存・本人への結果通知をPower Automateと連携して自動化。「チャット一言で申請できる仕組みを自分で作った」という体験が、「自分はここで働き続けられる」という確信につながったと本人は話しています。
Power Apps習得ロードマップ——入門から実務アプリ開発まで
Power Appsのスキルは段階的に積み上げられます。最初の1ヶ月は画面設計の基礎と入力フォームの作成からスタートし、「動くものを作る」体験を重視します。ここで「自分にも作れた」という感覚をつかむことが、次のステップへの原動力になります。
| フェーズ | 期間 | 習得内容 | 担当可能業務 |
|---|---|---|---|
| 入門 | 1ヶ月 | 画面設計・テキスト入力フォーム | 簡単なデータ入力アプリ |
| 基礎 | 2〜3ヶ月 | SharePointリスト連携・データ保存 | 業務記録・申請フォームアプリ |
| 応用 | 3〜5ヶ月 | 複数画面・条件分岐・自動通知 | 在庫管理・承認ワークフローアプリ |
| 発展 | 5ヶ月〜 | Power Automate連携・カメラ・バーコード | 複合業務アプリ・社内ツール完全内製化 |
発展段階に達した受講者の多くが「会社に外注していたツールを自分で作れるようになった」という変化を体験しています。外注コストを削減しながら、「自分たちのニーズを正確に反映したツール」を持てる——この経験が、組織にとってのDX推進と障害者社員の戦力化を同時に実現します。
TSUNAGU AcademyのPower Apps研修は、実際の業務課題をテーマにしたプロジェクト型研修です。「研修で作ったアプリがそのまま社内で使われた」という声が多数届いています。業務内製化による戦力化を、研修段階から一緒に設計しましょう。
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TSUNAGU 編集部
障害者雇用専門障害者雇用・IT/DX活用に関する情報を、人事担当者の視点でわかりやすく発信。 社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントが監修。最新の制度・法令については各省庁の公式情報をご確認ください。