「この人には何が向いているのか、正直わからない」——障害者社員の業務配置に悩む管理職から、この言葉をよく聞きます。特性の説明は受けた、合理的配慮の書面も作った、でも「この人が最もパフォーマンスを発揮できる業務」がどれかは、感覚に頼っている。そこに「強みインベントリー」という考え方が有効です。強みを一覧化・可視化することで、業務配置の判断に根拠が生まれます。
「弱みを補う」より「強みを伸ばす」発想への転換
障害者雇用における業務設計では、長らく「この人は〇〇が苦手だから、〇〇を避けた業務にしよう」という「弱みを補う」発想が中心でした。この発想は間違いではありませんが、「その人が最も活躍できる場所」を見つけることには不十分です。強みインベントリーは、この発想を180度転換する道具です。「何が苦手か」ではなく「何が得意で、何をしているときに自然にパフォーマンスが上がるか」を出発点にします。
実際、ストレングスファインダーの研究では、強みを活かした業務に就いている人は、弱みを補うことに注力している人と比べて定着率・生産性・満足度のすべてで高いスコアを示しています。障害の有無に関わらず、人は「得意なことをしているとき」に最もパフォーマンスが上がるという原則は変わりません。
強みインベントリーの作成:5つのステップ
まずストレングスファインダーやVIA強み診断(無料で受検可能)などのツールを受検してもらいます。診断結果はあくまで「仮説」であり、すべてが当てはまるわけではありませんが、「自分では気づいていなかった強み」を言語化するきっかけになります。ツール受検後は、本人と一緒に「これは当てはまる?」と確認しながら進めることが重要です。
ツール結果を踏まえた上で、次に「過去の業務・学校・趣味の中で、楽しかった・うまくいった経験」を5〜10個書き出してもらいます。「楽しかった」という感覚は、強みが発動している瞬間の最も信頼できるサインです。「なぜ楽しかったのか」を深掘りすることで、「細部に注意を払う作業が好き」「パターンや規則性を見つけるのが得意」「一人で黙々と集中できる環境が合っている」といった要素が抽出されます。
これらの要素を「強みカード」として1枚ずつ紙やデジタルカードに書き出し、視覚化します。そのうえで「現在担当している(または候補となる)業務のどれと重なるか」を並べて確認します。強みカードと業務が多く重なるほど、そこが「その人が最も活躍できる場所」に近いという判断材料になります。
- ストレングスファインダー・VIA強み診断などのツールを受検し、「仮説」として強みを言語化する
- 過去の「楽しかった・うまくいった」経験を5〜10個書き出し、共通要素を抽出する
- 抽出した要素を「強みカード」として視覚化する(付箋・カード・デジタルでも可)
- 強みカードと現在の業務(または候補業務)の重なりを確認し、最適配置を特定する
- 半年ごとに強みカードを見直し、成長とともに追加・更新する
強みインベントリーを業務設計に反映した事例
ASD特性を持つ田中さん(仮名)の強みインベントリーには「数字の細部への注意力」「パターンの認識と分類」「手順通りに進めることへの安心感」が並んでいました。これをもとに配属されたのが、Power BIを使ったデータ品質管理業務です。入力ミスや外れ値を自動検出するルールを自分で設定し、「普通では気づかないエラー」を発見することで、部署内で頼られる存在になりました。「強みカードに書かれた内容が、そのまま仕事になった感じです」という言葉が印象的でした。
強みインベントリーは一度作って終わりではなく、半年・1年のタイミングで更新を重ねることで、キャリアの成長地図になります。TSUNAGU Academyでは、入社前の特性アセスメントと強みの可視化を組み合わせた業務配置設計支援を提供しています。「何ができるか」ではなく「何が得意か」から設計を始めましょう。
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TSUNAGU 編集部
障害者雇用専門障害者雇用・IT/DX活用に関する情報を、人事担当者の視点でわかりやすく発信。 社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントが監修。最新の制度・法令については各省庁の公式情報をご確認ください。