「法定雇用率対策として始めた障害者採用が、2年後には社内DXの推進力になっていた」——従業員約500名の精密機器メーカーで人事部長を務める中村氏(仮名)の言葉です。ASD・ADHD特性を持つ18名を採用したことで、製造ラインの品質管理から新製品開発まで、組織のイノベーション力が変わったこの3年間の歩みを聞きました。
「法定雇用率対策」のつもりだった最初の採用
中村氏が発達障害のある人材の採用を始めたのは2022年のことです。当時の雇用率は1.9%。2.3%の法定雇用率に対して0.4%不足しており、毎年数百万円の納付金を払い続けていました。「正直に言うと、最初は「雇用率を達成するために、何人か採用しなければ」という義務感からスタートしました」と中村氏は振り返ります。
TSUNAGU Academyの研修修了者を紹介されたとき、最初に驚いたのはポートフォリオの質でした。「「障害のある方だから、簡単な業務しか担当できないだろう」という先入観があったんです。でも見せてもらったPower AutomateのフローやPower BIのダッシュボードが、うちの現場エンジニアが作るものより完成度が高かった。そこで初めて、先入観が完全に間違っていたと気づきました」。
ASD社員が見つけた「誰も気づいていなかった異常」
最初に採用したASD特性のある社員(製品データ管理担当)が入社3ヶ月後に起こした出来事が、中村氏の認識を完全に変えました。「製造ラインのセンサーデータを日々モニタリングしていた彼が、「このデータ、微妙にパターンが乱れています。通常の誤差範囲ですが、統計的に見ると先月から傾向が変わっている」と報告してきたんです」。
この報告を受けて設備点検を行うと、製造ラインの一部に軽微な劣化が見つかりました。その時点では不良品は出ていませんでしたが、放置すれば1〜2ヶ月後に深刻な問題になっていた可能性がありました。「うちのベテランエンジニアたちが見落としていた異常を、入社3ヶ月の社員が見つけた。ASDの「細部への注意力」と「パターンの微妙な変化に気づく力」が、品質管理において武器になることを、数字で証明された瞬間でした」。
ADHD社員が持ち込んだ「斜め上の発想」
ADHD特性のある社員を採用したのは同じ年の後半のことです。「最初はPower Automateの業務自動化担当として採用しました。確かにその業務でも成果を出してくれたのですが、それ以上に驚いたのは新製品アイデアの提案でした」。
毎月の業務改善提案会議で、ADHD特性のある社員が出す提案は「どうしてそんな発想ができるんだろう」というものが多かったと言います。「一般社員は「既存の延長線上の改善」を考えますが、彼は「まったく別のアングルから問題を見ている」という感じ。採用1年目に5件の新製品アイデアが社内で採用され、そのうち1件は現在商品化の検討段階まで進んでいます」。
DXへの具体的な貢献実績
| プロジェクト | 担当者の特性 | 成果 |
|---|---|---|
| 製造ラインデータ異常検知システム構築 | ASD(データ品質への細部注意力) | 不良品率30%削減・設備トラブルの早期発見 |
| 品質管理レポート自動生成フロー | ASD(反復作業の精度と一貫性) | 月40時間の工数削減・エラー率ほぼゼロ |
| 新製品アイデア提案 | ADHD(多方向からの思考・創造性) | 年間5件採用・1件商品化検討中 |
| 社内研修コンテンツのデジタル化 | 精神障害(丁寧さ・共感的な表現力) | 新人研修時間30%短縮 |
組織文化への予期しない影響
ニューロダイバース社員の活躍が目に見えてきた頃から、組織内に変化が生まれ始めました。「「あの社員は障害があるのに頑張っている」ではなく、「あの社員の得意なことはすごい」という評価が自然に生まれてきた。一般社員の間にも「自分の得意なことで貢献していい」という雰囲気が広がった気がします」と中村氏は話します。
「多様性が組織の文化を変えていった」——この変化は意図してつくったものではなく、ニューロダイバース社員が実際の成果で「特性を強みにできる」ことを証明し続けることで、自然に生まれたものでした。「最初は義務としての雇用率対策でしたが、今は「ニューロダイバースな人材は組織に必要」という戦略的な確信になっています」。
「法定雇用率対策から始まった取り組みが、気づいたらDX推進の核心になっていた」——この言葉が、障害者雇用を「義務」から「戦略」に変えることの本質を示しています。TSUNAGU Academyでは、ニューロダイバース人材の採用・育成・職域設計を一体的にサポートしています。
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TSUNAGU 編集部
障害者雇用専門障害者雇用・IT/DX活用に関する情報を、人事担当者の視点でわかりやすく発信。 社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントが監修。最新の制度・法令については各省庁の公式情報をご確認ください。